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チェロ弓 / ウジェーヌ・ニコラ・サルトリー (1871-1946)
フランス 1910年頃
サルトリー(Eugene Nicolas Sartory, 1871-1946)のチェロ弓は、1910年頃(20世紀初頭)の作です。
この時代は、弦楽器や弓の製作史において「フランスの黄金期(ベル・エポック)」の成熟期にあたり、歴史的にも非常に興味深い背景を持っています。当時の世相と楽器製作への影響をいくつかご紹介します。
1. 「ベル・エポック(美きき時代)」の絶頂期
1910年頃のヨーロッパ(特にパリ)は、第一次世界大戦(1914年〜)が始まる前の、平和と繁栄を極めた「ベル・エポック」と呼ばれる時代でした。
文化の隆盛: 芸術、音楽、文学が花開き、クラシック音楽界ではドビュッシーやラヴェルといった印象派が活躍、ストラヴィンスキーの『火の鳥』がパリで初演されたのもまさに1910年です。
豊かな需要: 経済的な繁栄により、音楽を嗜む富裕層やプロの演奏家が増え、良質で美しい楽器や弓に対する需要が非常に高まっていました。
2. サルトリーの「黄金期」と高い完成度
1910年頃のサルトリーは、30代後半から40代に差し掛かる時期で、技術的にも体力的にも完全に脂が乗り切った「絶頂期(ゴールデン・ピリオド)」にあたります。
彼はすでにパリで独立して大成功を収めており、この時代の彼の作品は、非常に厳選された最高級のフェルナンブコ材が使われています。
作風としても、初期のしなやかなスタイルから、現代の演奏家が好む「力強さ、芯のある音、優れた操作性」を兼ね備えた、完成度の高いスタイルへと完全に移行した時期です。
3. 良質な素材(銀や黒檀)の安定供給
1910年当時は、まだ世界大戦による物資不足や、現代のような環境保護による木材取引の規制(ワシントン条約など)が一切ない時代でした。
そのため、現在では入手不可能なレベルの、極めて高密度で質の良いフェルナンブコ材を惜しみなく使うことができました。
金具に使われている銀(Silver)やエボニー(黒檀)も、植民地貿易の恩恵などにより、非常に純度が高く上質なものが手に入った時代です。
💡 1910年製という価値
このわずか数年後(1914年)には第一次世界大戦が勃発し、ヨーロッパ全体が深刻な物資不足と混乱に陥ります。
そうなる直前の、「最も豊かで、最も贅沢に最高の材料を使えた平和な時代」に、天才サルトリーが最高の技術で作った一本であるという点が、この1910年頃の作品が現代の演奏家やコレクターから破格の評価(高額)を受ける最大の理由です。